【お前等帰れ。】





 それは、野球部全員+応援団長で屋上お昼なんてものを楽しんでいた時の話である。

「へっくしっっ!くしっっ!!」
 いきなりのクシャミ連発に、反応したのは当人ではなく彼の隣に座っていた男であった。
「…どうした?」
「…わっかん…くしっっ!!うぅぅ…かゆぃ…」
「鼻が?」
「奥の方が、なんか、ぐじぐじする。くしっっ!!」
「花粉症かぁ?」
「…無いよ、アレルギーなんて」
「今年は飛散量ハンパねぇらしいからな、普段無くても出るヤツぁいるらしいぞ」
「…無いもん」
 むぅぅと柔らかな頬を膨らませたクシャミの主(ってのも変な話だが)・栄口は、そのまま作った拳で目元をこしこしと擦り始めた。
 それに慌てたのは、またもの隣の男。
 栄口の両手首を取り、目元をかゆかゆと掻いている手を引き剥がしてしまう。
「あーあー、目ぇ擦るな」
「だってぇ…くしっ!!」
「どれ?」
 そう言いながら、栄口の顔を覗きこむ。
「…あーあ、真っ赤んなってんじゃん」
「かーゆーいぃぃ」
「掻くから余計痒いんだろ。ちょっと待てって」
「うぅぅぅ」
 そのままべろり、赤く色を変えた栄口の目元に舌を這わせた男は、拘束していた栄口の手首を開放すると、自分の荷物をごそごそと漁りだした。
 小さなビニール袋から取り出されたのは、水滴を纏ったペットボトル500ml。
 それをそのまま、栄口の目の上にちょこりと乗せる。
「わ!冷た!!何!!??」
 いきなり視界を覆われた栄口の抗議は尤もだと思うが、それに何一つ動じることなく、
「アクエ」
男はペットボトルを栄口の目元に優しく押し当てたまま、無防備な頬に唇を寄せる。
「買ったばっかだからな、まだ冷えてんだろ。冷やすとちったぁマシになんね?」
「きもちー」
「そりゃ良かった」
「あべ、やさしーねー」
「…おだてても何も出ねぇぞ?」
「おだててないよ、ホントだもん」
「…そりゃ良かったな」
「あ、あべ照れてるー」
「あっほっ!!…いーから黙って冷やされてろ!!」
「えへへー」
「ニヤケ面」
「いーもん、あべだけだもん見てるの」
「…まぁな。見せる気ねぇよ、他のヤツ等に」
「えへへー」
「笑うな、かぁいーから」
「何さそれー」
「…襲うぞっつってんの」
「…いーよ?」
「栄口?」
「…あべなら、いーよ…」
「…おっ前…ホント、タチ悪ぃよな」
「阿部は性格が悪いよね」
「…」
「でも、オレにはやさしーから、いーの」
 そうして再び笑みを描いた柔らかな頬に、アクエを押し当てたままの男の唇がまたもむにっと押し当てられる。



 一連。
 先にも述べたが、「野球部全員+応援団長」で「屋上お昼」なんてものを「楽しんでいる」最中なのである。今現在。なーう。
「…栄口、エッロ!!」
「さかえ、ぐち、くん!!」
「あれだよねー、時々栄口は、箍が飛ぶよねー」
「それを言うなら箍が『外れる』な、水谷」
「な!いーじゃんそれくらい!!巣山のケチー」
「ケチって…」
「はいはい騒ぐな水谷ー。田島も黙ってろー。このまま知らぬ振りして通せよー」
「…いやぁ、それはムリじゃないかな、花井。ねぇ、沖」
「…うん、無理だと思う…円になっちゃってるし…」
「無理でもやり通すのが西浦根性!うらーぜ、ふぁいっっ!!」
「…とうとう壊れちゃったか…」
「…花井、苦労してるからね…」
「…阿部か…」
「い、泉、いやあのね、この場合は阿部だけじゃないと思うんだけどね」
 この数秒後、止めるのに失敗した応援団長は無残にもコンクリ床とお友達になり、西浦野球部特攻隊長・女王様泉の絶叫が平和な屋上の空気を一掃したそうな。

「そこのばかぽー!!ハウスっっっ!!!!」


(((((((((犬っっっ!!!???)))))))))